既存の紙の契約書をスキャンして電子化・管理する際には、税務上の要件と民事・商事上の取り扱いを区別して検討することが必要です。本記事では、国税庁・法務省の公開情報をもとに、それぞれの観点での留意点を整理します。
「電子化」の目的による取り扱いの違い
紙の契約書を電子化する目的は主に2種類に分けられます。
| 目的 | 根拠法令 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 税務上の保存義務を電子データで果たすため | 電子帳簿保存法(スキャナ保存) | 国税庁が定める適用要件 |
| 社内の契約書管理・検索をデジタル化するため | 法令上の義務なし(業務上の選択) | 原本の保管義務・証拠価値 |
これら2つは異なる法令・観点に基づくものであり、それぞれ確認すべき事項が異なります。
税務上の取り扱い:電子帳簿保存法のスキャナ保存
電子帳簿保存法(電帳法)には「スキャナ保存」制度があり、取引先との契約書・領収書・請求書等の国税関係書類をスキャンして電子データとして保存することを、一定要件のもとで認めています。
主な適用要件(概要)
- 書類受領後おおむね7営業日以内のスキャニング(入力期間要件)
- 解像度200dpi以上・カラー(契約書などの重要書類の場合)
- タイムスタンプの付与、または訂正・削除防止措置の整備
- 取引年月日・金額・取引先による検索機能の確保
- 関連帳簿との相互関連性の確保(重要書類の場合)
これらの要件を満たすと、税務上は電子データを原本として保存でき、紙原本を廃棄できる場合があります。令和4年(2022年)1月以降は税務署への事前承認が不要になっています。
スキャナ保存の詳細な適用要件については 電子帳簿保存法のスキャナ保存制度:対象書類と適用要件の整理 を参照してください。
民事・商事上の取り扱い
スキャン後に紙原本を廃棄できるか
電帳法のスキャナ保存要件を満たしたとしても、それは税務上の根拠にとどまります。紙の契約書は税務以外の法令(商法・民法等)に基づく保存義務の対象となる場合があり、それらとの関係を別途確認することが必要です。
商法上の保存義務
商法は商人(個人事業主を含む)に対して商業帳簿および商業書類の保存義務を課しています。商法第36条では商業帳簿の保存期間を10年と定めており、契約書がこの規定の対象となる場合は保存期間の確認が必要です。
契約書の法令別保存期間の整理については 契約書の保存期間(個人事業主・法人それぞれの整理) も参照してください。
民事訴訟上の証拠価値
民事訴訟では、紙に押印がある契約書は「文書」として証拠となり得ます(民事訴訟法第228条)。一方、スキャンしたPDFは原則として「写し」の扱いになり、原本との同一性を主張する必要が生じます。
法務省の「押印についてのQ&A」でも、押印がなくても電子的な手段で合意の記録を残すことが証明手段として機能し得ると示されていますが、証拠としての評価は個々の事案によります。
紛争リスクの高い取引については、税務上の要件とは別に、訴訟上の証拠として紙原本を保管することが実務上検討される場合があります。
法令上「書面」が必要な契約
民法・業法上「書面による契約」を要件としている一部の契約(公正証書作成が必要なものなど)については、スキャンした電子データで紙原本に代えることが認められない場合があります。
該当するかどうかは各契約の根拠法令を確認することが必要です。
業務上の契約書管理(電子化後の運用)
税務要件・法的義務とは別に、社内の契約書管理をデジタル化することは法的義務ではなく業務上の選択です。スキャナ保存の要件を満たさない形でスキャンする場合は、以下の整理が実務上一般的です。
- スキャンデータは「参照用コピー」として位置付け、原本は別途保管する
- 紙原本は商法・民法・税法の中で最も長い保存義務期間に従い保管する
- スキャンデータの改ざん防止や版管理の運用設計を行う
注意点
- 電子帳簿保存法の要件は改正により変更されることがあります。適用時点の国税庁公開情報を確認してください
- 商法第36条の保存期間(10年)はあくまで商業帳簿に関する規定であり、書類の種類によって適用される法令・期間が異なります
- 個別の書類について「スキャナ保存要件を満たせば廃棄できるか」は書類の種類・性質によって判断が異なります
- 紙で締結した契約書の電子化・廃棄については、状況に応じて税理士・弁護士等の専門家に確認することを推奨します
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まとめ
紙の契約書の電子化には、**税務面(電帳法スキャナ保存)と民事・商事面(証拠価値・商法の保存義務)**の両側面からの確認が必要です。電帳法のスキャナ保存要件を満たすことで税務上は電子データでの保存が認められますが、民事訴訟上の証拠価値や商法上の保存義務については別途確認が必要です。
本記事は国税庁・法務省の公開情報をもとに整理したものです。個別の書類の取り扱いや法的効果については、税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。