電子契約サービスを導入しようとした場面で、取引先が電子契約システムを持っていない、または使い慣れていないというケースがあります。本記事では、相手方が対応していない場合に取り得る選択肢と確認事項を、公官庁の公開情報をもとに整理します。
民法上の契約成立と書面・押印の関係
民法においては、原則として合意さえあれば契約は成立します。書面を作成すること、押印することは、ごく一部の例外を除き、契約の有効要件ではありません。
内閣府・法務省・経済産業省が令和2年(2020年)6月に公表した「押印についてのQ&A」では、以下の内容が明記されています。
- 「特段の定めがある場合を除き、契約に当たり押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない」
- 書面を作成しなくても、書面・押印を要しない契約は有効に成立する
ただし、合意内容を証明する手段がないと後日の紛争時に困るため、メールのやり取りや電子署名など、何らかの形で合意の記録を残すことが実務上重要です。
相手方が電子契約ツールを持っていない場合の選択肢
選択肢①:立会人型の電子契約サービスを使う
クラウド型の電子契約サービスには「立会人型(事業者署名型)」という方式があります。この方式では、相手方(署名者)はサービスのアカウントや電子証明書を持っていなくても、メールに届くリンクにアクセスして署名操作を行うことができます。
立会人型では署名者ごとのアカウント登録が不要なため、電子契約ツールを持っていない相手方でも、メールアドレスがあればそのまま対応できます。国内の主要クラウド型電子契約サービスの多くがこの立会人型を採用しています。
立会人型と当事者型(相手方も電子証明書が必要な方式)の詳細な違いは 立会人型電子契約と当事者型電子契約の違い を参照してください。
選択肢②:相手方に電子契約サービスの導入を提案する
取引が継続的で今後も契約機会が多い場合、相手方にも電子契約サービスの導入を打診することが選択肢の一つです。この場合は、相手方が実際に使用するサービスの方式・費用・運用について、双方で確認・合意形成を行う必要があります。
選択肢③:書面(紙)で契約を締結する
電子契約への移行が困難な場合は、従来どおり紙の契約書で締結することも法的に認められています。民法の原則上、電子契約でなければならないという義務はなく、当事者双方が合意した方法で契約を締結することが基本です。
法律上「書面」が必要な一部の契約
民法・各業法等の特別規定により、一部の契約では書面(紙)での締結が義務付けられています。こうした契約については、電子化の可否や方式について個別の法令を確認することが必要です。
確認が必要な契約の例:
- 農地の賃貸借契約 — 農地法の規定で書面による契約が求められています
- 公証人の認証を要する契約 — 任意後見契約書、株式会社の定款(公証人の認証が必要)等
電子化が認められているか不明な場合は、法務省の公開情報や弁護士への相談が参考になります。
相手方から電子契約を求められた場合
逆に、取引先から電子契約サービスへの移行を求められるケースもあります。この場合は、以下を事前に確認しておくと実務上有益です。
- 相手方が指定するサービスの署名方式(立会人型か当事者型か)
- 費用負担の扱い(受信側に費用がかかるか)
- 締結後の契約データの保存・管理方法
電子契約サービスで締結した契約データは、電子帳簿保存法上の「電子取引データ」として保存義務の対象となります。詳しくは 電子帳簿保存法における電子取引データの保存要件 を参照してください。
注意点
- 相手方への説明・合意確認なく一方的に電子契約方式に切り替えることは、手続上のトラブルの原因になる場合があります
- 電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)は、電子署名の法的効力の根拠となる法律です。各サービスの電子署名方式がどの要件に対応しているかは各社公式情報で確認してください
- 重要度の高い契約の有効性判断については、弁護士等の専門家にご相談ください
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まとめ
電子契約を相手方が持っていない場合でも、立会人型の電子契約サービスを使えば相手方はアカウントなしでメールリンクから署名操作ができるため、実務上の障壁は比較的小さくなっています。相手方が電子対応を望まない場合は、紙の書面での締結も依然として有効な選択肢です。
法律上書面が義務付けられた一部の契約については、電子化の可否を個別に確認することが必要です。本記事は公開情報をもとに整理したものです。個別の契約の有効性や適切な署名方式の選択については、弁護士等の専門家にご相談ください。