契約書は、締結に至るまでに取引先との間で何度も文言が修正され、複数のバージョンが生まれます。締結後は電子データとして保存する事業者も増えていますが、「改訂履歴の記録」と一口に言っても、締結前のドラフト管理と締結後の電子帳簿保存法上の真実性要件は、目的も根拠も異なる別の話です。本記事では両者を切り分けたうえで、国税庁の公開情報をもとに記録方法のポイントを整理します。
2つの「履歴管理」を区別する
締結前:ドラフトの版数管理(業務上の実務)
契約交渉の過程では、条項の修正案が取引先との間で何度もやり取りされます。この段階での版数管理(v1、v2…といった管理や、いつ・誰が・どの条項を変更したかの記録)は、法令上の義務ではなく、認識齟齬や条件の見落としを防ぐための業務上の実務です。
締結後:電子データ保存における真実性の確保(電子帳簿保存法上の要件)
契約が確定し、電子契約サービス等で締結した契約書(または PDF 等でやり取りした契約書)を電子データのまま保存する場合、その契約書は電子帳簿保存法上の「電子取引」に該当することがあります。この場合、保存したデータが後から改ざんされていないことを担保する「真実性の確保」の措置が必要です。
この2つを混同すると、「ドラフトの版数を管理していれば法令上の要件も満たしている」といった誤解につながりかねません。以下、それぞれを分けて整理します。
締結前:ドラフトの改訂履歴を残す実務上のポイント
法令上の定めはないものの、契約交渉の実務では以下のような管理が一般的に行われています。
- ファイル名やバージョン番号での管理(例:
契約書_取引先名_v3_20260701.docx) - 変更履歴機能の活用(Word の変更履歴、契約書管理システムの自動バージョン管理機能など)
- どの条項をなぜ変更したかのメモを残す(後日の解釈の食い違いを防ぐため)
これらはあくまで交渉プロセスの記録であり、契約が確定した後は、最終版(締結版)を確定させ、ドラフト段階の履歴と明確に区別して保存することが実務上のポイントです。
締結後:電子帳簿保存法上の真実性の確保
契約が確定し、電子契約サービスやメール添付の PDF などで授受した契約書データを電子的に保存する場合、国税庁の適用要件によれば、真実性確保のために次の4つの方法のいずれかを満たす必要があるとされています。
- タイムスタンプが付与された後に取引情報を授受する
- 授受後速やかにタイムスタンプを付与する
- 訂正・削除を行った場合にその記録が残るシステム、または訂正・削除ができないシステムを利用する
- 正当な理由のない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定めて運用する
締結後の契約書について「改訂履歴を記録する」という文脈で特に関係するのが 3番目の「訂正・削除の記録が残るシステム」 です。多くの電子契約サービスでは、締結後の契約書データそのものを直接編集できない仕様とし、内容を変更する場合は覚書等の別文書として取り交わす運用になっています。この仕様が、真実性確保の要件に対応する土台になっています。
締結後に内容を変更する場合:覚書の扱い
契約締結後に条件変更が必要になった場合、原契約を直接書き換えるのではなく、変更内容を記載した覚書(変更契約書)を別途取り交わすのが一般的な実務です。国税庁の要件との関係では、この覚書もまた新たな電子取引データとして真実性確保・検索要件の対象になります。
実務上は、原契約と覚書を紐付けて管理する(ファイル名やフォルダ構成で原契約との関連が分かるようにする、索引簿に原契約番号を記載する等)ことで、後から契約内容の変遷を追跡できる状態を保つことができます。
個人事業主が押さえておきたいポイント
- 締結前のドラフト管理はあくまで業務上の実務であり、電子帳簿保存法の要件とは別物と理解する
- 締結後の契約書データは、電子取引に該当する場合、真実性確保の4つの方法のいずれかを満たす必要がある
- 内容変更は原契約の書き換えではなく覚書で対応し、原契約との関連が分かる形で保存する
- 利用している電子契約サービスが「訂正・削除の記録が残るシステム」の要件にどう対応しているかは、各サービスの公式情報で確認する
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まとめ
契約書の「改訂履歴の記録」には、締結前のドラフト管理(業務上の実務)と、締結後の電子データ保存における真実性の確保(電子帳簿保存法上の要件)という、性質の異なる2つの側面があります。締結後の契約書データを電子的に保存する場合は、原契約を直接書き換えず、内容変更は覚書として取り交わし、原契約との関連が分かる形で保存することがポイントです。
なお、本記事は国税庁等の公開情報をもとに整理したものであり、個別の保存方法や契約実務の適否については、税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。